Q.新しい手当を設ける場合、労働条件通知書は必ず作成しなければなりませんか?
A.必ずしも既存社員全員について労働条件通知書を作り直す必要はありません。ただし、手当は「賃金」という重要な労働条件です。そのため、全社的な制度として設けるのか、特定の社員だけに個別に支給するのか、また既存の賃金を減額する変更を伴うのかによって、必要な対応が異なります。実務上は、「就業規則・賃金規程を変更するケース」「個別に書面を交付するケース」「本人の合意まで必要となるケース」を分けて考えることが重要です。
1.全社的な手当なら、まず就業規則・賃金規程を確認
資格手当、役職手当、営業手当などを、一定の条件に該当する社員へ継続的に支給する場合は、まず就業規則や賃金規程への反映を検討します。
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、賃金の決定・計算・支払方法などは就業規則の必要記載事項です。そのため、新しい手当についても、対象者、金額、支給条件、支給開始時期などを規程に定めるのが基本です。
規程を変更した場合は、過半数代表者等から意見を聴いたうえで労働基準監督署へ変更届を提出し、社員への周知も必要となります。
一方、このように規程によって全社的に制度を変更する場合、既存社員全員の労働条件通知書を再発行することまで法律上義務付けられているわけではありません。
なお、労働基準法上、労働条件通知書の交付義務は「労働契約の締結時(有期契約の更新時を含む)」に限定されていますが、賃金等の重要な条件に変更がある場合には、就業規則の改定・周知に加えて、個別にも書面で変更内容を示しておくことが望ましいとされています。
2.特定の社員への手当は、書面に残しておく
「プロジェクト責任者になった社員だけ月3万円を支給する」「特定業務を担当している期間だけ職務手当を支給する」など、個別の労働条件として手当を設定する場合は、書面に残しておくことをおすすめします。
具体的には、「労働条件変更通知書」「変更合意書」「覚書」などを作成します。書面のタイトルは細かく気にする必要はありません。書面には、少なくとも「手当の名称」「金額」「支給開始日」「支給要件」を記載し、期間限定の場合は終了日や終了条件まで明記しておくとよいでしょう。
労働契約法第4条でも、労働契約の内容について、できる限り書面で確認することが求められています。後から「ずっと支給されると思っていた」といった認識の相違を防ぐためにも、個別条件については書面化しておくことが実務上重要です。
3.基本給や既存手当を下げる場合は要注意
特に注意が必要なのは、「新しい手当を設ける代わりに他の手当を下げる」「既存手当を廃止して別の手当に組み替える」といったケースです。
この場合は単なる手当の新設ではなく、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。労働条件は労使の合意によって変更できますが、会社が一方的に不利益な変更を行う場合には、労働契約法上、その必要性や労働者が受ける不利益の程度、変更内容の相当性などが問題となります。
また、最高裁の山梨県民信用組合事件では、賃金等の不利益変更について、単に社員が同意書へ署名しただけでなく、自由な意思に基づく同意であったかを慎重に判断すべきとされています。
そのため、「覚書にサインをもらえば大丈夫」と考えるのは避けるべきです。
まとめ
- 全社的な制度であれば、まず就業規則・賃金規程を整備する
- 特定社員だけの条件であれば、通知書や覚書を作成する
- 既存賃金の減額などを伴う場合は、不利益変更として個別合意を含め慎重に検討する
大切なのは、「手当を作ったから通知書を出す」という一律の判断ではなく、その手当がどのような性質のものかを確認することです。
手当の新設や見直しを検討する際は、制度を開始する前に、規程変更や社員への説明方法まで含めて整理しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。具体的な対応は、手当の内容や現在の就業規則等によって異なります。

