第5章 採用が決まったらやるべきこと

「この人に来てもらおう」と決めた瞬間。

うれしさと同時に、「さて、次は何をすればいいんだっけ?」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。

採用が決まったら、やるべきことはたくさんあります。
でも、ひとつひとつ順を追って準備すれば大丈夫。

この章では、採用が決まったあとに必要な手続きや準備、そして初日の迎え方まで、実務的なポイントをわかりやすくお伝えしていきます。

1 採用が決まったら、まずやること

まずは、採用が決まったらすぐにやるべきことを整理しておきましょう。

採用決定後にやることリスト:

  • 採用の意思を本人に伝える(電話やメール等、あらかじめ約束した方法で)
  • 雇用契約書を作成する
  • (加入状況に応じ)労働保険・社会保険の手続きを確認する
  • 初出勤日を決める(事前に打ち合わせをする場合はその日)

特に大切なのは、「労働条件をきちんと書面で交わすこと」。
口約束だけで始めてしまうと、後々のトラブルのもとになります。

労働基準法上も雇入れ時は速やかに「労働条件通知書」を交付することが義務付けられています。
労働条件は必ず書面にしましょう。

2 雇用契約書って、どう作ればいい?

「契約書って、どうやって作ればいいの?」という声もよく聞きます。
その前に「雇用契約書」と「労働条件通知書」の違いを整理しておきましょう。

【労働条件通知書】

  • 労働基準法第15条により明示する項目が定められている
  • 雇入れ時に交付義務がある
  • 労働条件通知書は使用者が一方的に交付する
  • 原則、書面で行う

【雇用契約書】

  • 法令等により明示する項目は定められていない
  • 交付(締結)義務はない
  • 使用者と労働者が労働条件について合意し締結するもの
  • 雇用契約は口約束でも成立する

上記のように、労働条件通知書は必ず交付しなければいけませんが、使用者が一方的に交付するものです。
そのため労働条件について合意したという証明として別途雇用契約書を締結するほうがよいでしょう。

ですが、わざわざ雇用契約書を準備することも労力がいりますので、労働条件通知書と雇用契約書を兼用にすることで2つの課題は解消できます。
なお、労働条件通知書においては次の内容を明示することが必要です。

●労働条件通知書に記載する明示項目:

<必ず明示しなければならない事項>

①労働契約期間に関する事項
②期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関する事項
③就業場所および従事すべき業務に関する事項
④始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を2組以上に分けて就業してもらう場合における就業時転換に関する事項
⑤賃金の決定方法、支払時期ならびに昇給に関する事項(退職手当および⑧の内容を除く)
⑥退職(解雇の事由を含む)に関する事項

<定めをした場合には明示しなければならない事項>

⑦退職手当に関する事項
⑧臨時に支払われる賃金(賞与など)ならびに最低賃金額に関する事項(退職手当を除く)
⑨労働者に負担してもらうべき食費、作業用品その他に関する事項
⑩安全衛生に関する事項
⑪職業訓練に関する事項
⑫災害補償および傷病扶助に関する事項
⑬表彰および制裁に関する事項
⑭休職に関する事項

労働条件通知書は、厚生労働省のホームページで雛形が手に入ります。
また、当事務所のホームページにも雛形を準備しています。

3 社会保険・労働保険の手続き

人を雇うと、保険関係の手続きも必要になります。
これは「義務」なので、忘れずに対応しましょう。

「アルバイトだから」「パートだから関係ない」と思いがちですが、人を一人でも雇入れると労災保険に加入することが必要です。
また、週20時間以上働く場合は雇用保険の対象になる場合もありますので、法律上の要件と労働条件をしっかり確認しましょう。

【主な手続きと加入要件】

  • 労働保険(労災保険・雇用保険)への加入  労災保険=全労働者が加入  雇用保険=週の所定労働時間数が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがあること
     ※ただし、昼間学生(全日制の大学生や高校生)を除く
  • 社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入  ※事業所が適用事業所であることが前提
     ※従業員数50人以下の事業所の場合
     ※原則、健康保険と厚生年金保険はセットで加入する

    =1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が、正社員の3/4以上であること 
     例:常勤社員の所定労働時間が週40時間、所定労働時間数が月21日の場合 →  加入要件「週30時間以上」かつ「月16日以上」
  • 税務署への「給与支払事務所等の開設届出書」の提出

これらの手続きは、ハローワークや年金事務所、労働基準監督署などで行います。
初めてで不安な場合は、社会保険労務士に依頼するのも一つの方法です。

4 初出勤までに準備しておくこと

採用が決まったら、初出勤までに次のような準備をしておくとスムーズです。

【事前に準備しておくこと(例)】

  • 業務マニュアルや引き継ぎ資料の用意
  • デスクやパソコン、制服など貸与品の準備
  • 勤怠管理や給与計算の方法を決めておく
  • 社内ルールや就業規則等の説明資料
  • 初出勤日のスケジュールを組んでおく
  • 3か月間ぐらいの仕事の到達目標を作成する

「初日がスムーズにいくかどうか」で、その後の定着率が大きく変わります。
忙しいからとこの準備をおろそかにすると、忙しさのなかでバタバタと進んでしまい、気がつくと退職されていたということになりかねません。

相手に過度に配慮する必要はないと思いますが、雇用難の時代です。
使用者として初出勤日は「来てくれてありがとう」という気持ちで受け入れ体制を整えておきましょう。

5 初日の迎え方と、最初の1週間

いよいよ初出勤の日。

初めて採用するあなた自身も緊張と不安でいっぱいだと思いますが、雇用される人は、もっと緊張と不安でいっぱいのはずです。
だからこそ、お互いに最初の印象がとても大切です。

ただし、雇用するあなたがイニシアチブを持っていますので、あなたの方からアプローチしていきましょう。
挨拶にしろ、声掛けにしろ、上の立場(上司)の者から行うのが基本です。

【初日のポイント】

  • 笑顔で迎える(ニコッと一瞬笑うだけでもいいですよ)
  • あらためて会社や仕事の全体像を説明する
  • いきなり任せすぎず、少しずつ慣れてもらう
  • 質問しやすい雰囲気をつくる
  • 「困ってない?」とこまめに声をかける
  • 3か月ぐらいの到達目標を示す

そして、最初の1週間は「教える」よりも「一緒にやる」ことを意識してみてください。
「この会社でやっていけそう」と思ってもらえるかどうかは、最初の数日で決まることが多いのです。

「最初の1週間は、信頼関係を築く時間」と考えると、接し方が変わります。

✅ この章のポイント

  • 採用が決まったら、まず契約書と条件の確認を
  • 社会保険・労働保険の手続きは忘れずに
  • 初出勤までに、受け入れ準備を整える
  • 初日は「安心感」を与えることが大切
  • 最初の1週間は、信頼関係を築く時間

《まとめ》

採用が決まったら、それはゴールではなく「スタートライン」です。
ここからが、本当の意味での“人を雇う”ということの始まりです。

次の章では、「雇った人とどうやって一緒に働いていくか?」をテーマに、育成やコミュニケーションのコツをお伝えしていきます。
せっかく来てくれた人に、長く気持ちよく働いてもらうために、できることを一緒に考えていきましょう。