Q. 就業規則と労働条件通知書の内容が異なり、さらに実際の運用も異なる場合、どれが優先されるのでしょうか?

A. 大前提として、法令(労働基準法・最低賃金法など)や労働協約に反する取扱いは無効となり、法令や労働協約の定めが優先されます。 そのうえで、就業規則と個別の労働契約(労働条件通知書・雇用契約書など)の内容が異なる場合は、就業規則を下回る不利な個別契約部分は無効となり、就業規則の基準に引き上げられ、それを上回る有利な個別契約は有効に扱われるという整理になります。さらに、実際の運用が一定の要件を満たして「労使慣行」として認められると、就業規則や個別契約よりも有利な内容については、その慣行が労働条件として扱われる場合もあります。すなわち、書面上の規程だけでなく、実務での取扱いまで含めて整理することが必要です。

■就業規則と個別契約はどちらが優先されるか

就業規則は、原則としてその事業場で働く従業員に共通して適用される「最低ライン(基準)」の役割を持ちます。そのため、就業規則と個別契約の内容が異なる場合は、次のように考えます。

  1. 個別契約の方が有利な場合
    個別契約が優先されます。
    (例)就業規則で年次有給休暇が10日とされているのに対し、労働条件通知書で15日と定めている場合は、15日付与が必要になります。
  2. 個別契約の方が不利な場合
    その部分は無効となり、就業規則の基準に自動的に引き上げられます。
    (例)就業規則で年次有給休暇20日付与とされているのに、通知書で10日と定めていても、20日付与が必要になります。

どちらが「有利」かの判断は、単に日数や時間の多寡だけでなく、賃金水準、休憩の取り方、総労働時間などを総合的・実質的に見て判断されます。

■実際の運用が「労使慣行」になるケース

就業規則や個別契約と異なる運用が、

  • 長期間にわたり反復継続して行われている
  • 労使双方がその運用を特に問題視せず、排除していない
  • 会社側も単なる例外対応ではなく、事実上のルールとして意識して運用している

といった要件を満たす場合、実際の運用が「労使慣行」として労働条件化することがあります。

慣行が就業規則・個別契約より有利な場合
その有利な条件が、労働条件として認められ、実務上は慣行どおりの取扱いが優先されると判断されることがあります。

慣行が就業規則・個別契約より不利な場合
労働条件の最低ラインとしての就業規則や、労働基準法等の最低基準を下回ることになるため、そのような不利な慣行は原則として有効な労働条件とは認められにくいと考えられます。

なお、期間が短い一時的な運用や、例外的な取扱いにとどまるケースは、そもそも労使慣行として認められない可能性が高い点にご注意ください。

■就業規則自体が法令違反の場合

就業規則の規定が労働基準法や最低賃金法などの労働条件の最低基準を定める法令に反する場合、その規定は無効となり、その部分は法定基準で補われます。

  • 例:賃金支払期日を2か月に1回と定めている
    → 労基法は賃金を毎月1回以上・一定期日に支払うことを定めているため、「2か月に1回」という定めは無効となり、毎月の支払が必要になります。
  • 例:時間外割増率が法定の率を下回っている、最低賃金を下回る賃金を定めている
    → その部分は無効となり、法定の割増率や最低賃金額に読み替えられます。

一方で、定年や雇用確保措置など、法令に補充効がない類型の強行法規に反する場合は、その就業規則の定めが無効になるだけで、法令上の年齢などに自動的に引き上がるわけではないという扱いになる場合もあります。

【まとめ】

  • 就業規則と個別契約が食い違う場合、労働者にとって有利な方が優先される
  • 実際の運用が長期・反復・規範性をもって行われていれば、労使慣行として労働条件化する可能性がある
  • 就業規則自体が法令に反する場合は無効となり、法定基準が適用される