第1章:人事評価制度、導入しただけで満足していませんか

「人事評価制度は作った。でも現場は全く変わらない。」

そんな声を、福祉・介護の小規模事業所からよく耳にします。

制度導入当初は熱心に取り組んだものの、数カ月も経つと現場では使われなくなり、書類の中で眠ってしまう——これが多くの施設で見られる現実です。

なぜこうした“制度疲れ”が起きるのでしょうか。
背景には、制度の目的や運用方法が十分に浸透しておらず、「とりあえず形を整えた」段階で止まってしまっているケースが多く見受けられます。

●評価制度は「道具」に過ぎない

まず理解しておきたいのは、人事評価制度自体が何かを変えてくれる“魔法の仕組み”ではないということです。

制度はあくまで「職員の頑張りを可視化し、適正なフィードバックを行い、組織として育てていく」ための“道具”に過ぎません。
使い方次第で、現場の信頼を築くことも、逆に不満や不信感を招くこともあります。

特に従業員20名程度の小規模福祉事業所では、制度が「誰のためのものか」「何を目的としているのか」がぼやけていると、職員がその制度を自分ごととして受け止めることができません。

すると、評価がただの“上からの通知”となり、結果として制度が形骸化してしまうのです。

●「評価の先」が見えない現場

制度を導入して終わり、というケースでは、評価の結果が給与に反映されるだけで、職員の成長や目標設定につながっていないことが多く見受けられます。

たとえば、Aさんが「コミュニケーション力が高い」と評価されたとしても、「次に何を目指すべきか」「そのスキルをどう活かすか」が見えてこなければ、本人のモチベーション向上にはつながりません。

成長支援やキャリア形成と結びついていない評価は、単なる“通信簿”になりがちです。
職員が「自分の成長を応援してくれる職場だ」と実感できるためには、評価の“その先”を見据えた運用が欠かせません。

●制度の定着には「対話」が不可欠

小規模事業所の強みは、管理者と職員の距離が近いことです。

この特性を活かして、評価結果を伝えるだけでなく、「なぜその評価なのか」「次にどう成長できるか」といった対話の場を設けることが制度定着の鍵となります。

実際、年に1〜2回、評価面談を丁寧に実施している施設では、職員の定着率が高く、職場内の信頼関係も良好です。
逆に、面談が形だけになっている職場では、「何を基準に評価されたのか分からない」「上司に評価されて終わり」という不満が積もり、離職にもつながりやすい傾向にあります。

●評価制度を“成長支援のツール”へ

今回のテーマは、「評価で終わらせない」ことです。

評価制度を単なる処遇の基準ではなく、「職員の可能性を引き出す仕組み」に進化させることが、これからの福祉事業所に求められています。

そのためには、以下の3つの視点が重要です。

  1. 評価の背景と目的を職員と共有する
  2. フィードバックを通じた成長支援を意識する
  3. 評価後の面談・目標設定・フォローアップを運用に組み込む

これらを実践することで、制度は現場に根付き、単なる「評価」から「育成と信頼の仕組み」へと変わっていきます。