Q.「労災保険のメリット制」とは何ですか? 事業によって保険料が変わると聞いたのですが、どんな仕組みなのでしょうか。
A.メリット制とは、同じ業種でも事業場ごとに労災の発生状況が異なることを踏まえ、災害が少ない事業場は保険料を割引、多い事業場は割増とする仕組みです。事業場ごとの労働災害の多寡に応じて、労災保険率または労災保険料額を一定の範囲内(基本は±40%、一部の例外では±35%または±30%)で増減させます。具体的には、直近3保険年度の労災給付額と保険料の比率(メリット収支率)に応じて、労災保険率を増減させる仕組みです。
■メリット制が適用される要件
1.継続事業(一般の工場や事務所など)の場合
一般の工場や事務所などの「継続事業」では、次の2つを両方満たす必要があります。
まず、「継続性の要件」で、適用しようとする保険年度の前々保険年度に属する3月31日(基準日)の時点で、労災保険の保険関係成立から3年以上が経過していることです。
次に「規模の要件」で、基準日の属する保険年度の前々保険年度からさかのぼって連続する3保険年度の各年度について、次のいずれかを満たすことが必要です。
- 労働者数が100人以上であること
- 労働者数が20人以上100人未満であり、かつ災害度係数が0.4以上であること
(災害度係数 = 労働者数 ×(業種ごとの労災保険率 − 非業務災害率))
2.一括有期事業(建設・立木伐採の一括)
建設や立木伐採をまとめた「一括有期事業」では、次の2つの要件を満たす場合にメリット制の適用対象となります。
- 連続する3保険年度中の各保険年度において、確定保険料の額が100万円以上であること
- その3保険年度中の最後の保険年度の3月31日(基準日)現在で、労災保険の保険関係成立の日から3年以上経過していること
3.単独有期事業(ビル新築など個別の工事)の場合
ビル新築などの「単独有期事業」では、次のいずれかに該当する場合にメリット制の適用対象となります。
- 確定保険料の額が40万円以上であること(平成24年度以降に保険関係が成立した事業に適用)
- 建設の事業では、請負金額(消費税相当額を除く)が1億1千万円以上であること(平成27年度以降に保険関係が成立した事業に適用)
■保険料が「増える/減る」仕組み
増減を決めるのが「メリット収支率」です。
これは、一定期間(通常は直近3保険年度)の業務災害に係る保険給付(特別支給金を含む)の額を、確定保険料に第1種調整率(一般の継続事業では0.67)を掛けた額で割った割合です。
メリット収支率に応じて、次のように保険料率が増減します。
- メリット収支率が75%以下の場合
値が小さいほど割引幅が大きくなり、最大で −40%まで引き下げられます。
無災害や軽微な災害のみの事業場では、大きな割引が見込まれます。 - メリット収支率が85%以上の場合
値が大きいほど割増幅が大きくなり、最大で +40%まで引き上げられます。
重篤な災害や長期給付を伴う事故が複数発生すると、料率が大きく割増となります。 - メリット収支率が75%超~85%以下の範囲
増減はなく、基準となる労災保険率のままです。
■実務での確認ポイント
1.自社がメリット制の適用事業場かどうか
自社がメリット制の適用事業場かどうかは、毎年送付される「年度更新の申告書」で確認できます。
申告書の事業場情報欄等に「メリット制の有無」が印字されており、表示があれば既にメリット制の適用事業場です。
なお、メリット制は労災保険率(または保険料額)にのみ適用され、雇用保険料には影響しません。
2.中小企業向けの「特例メリット制」
中小企業で一定の安全衛生措置を実施し、都道府県労働局長の確認を受けた場合には、「特例メリット制」が適用されることがあります。
特例メリット制とは、次のような制度です。
- 対象:厚生労働省令で定める数以下の労働者を使用する中小企業事業主が、安全衛生措置(例:快適職場推進計画に基づく措置や労働安全衛生マネジメントシステムの実施等)を講じ、その確認を受けた事業(建設の事業および立木の伐採の事業は除く)。
- 効果:安全衛生措置を講じた年度の次の次の年度から3年度の間で、メリット制が適用される年度に限り、労災保険率から非業務災害率を減じた率の増減幅を最大±45%まで拡大できる(通常は最大±40%)。
【まとめ】
- 自社の適用の有無は年度更新の申告書で確認でき、安全衛生への取り組みや中小企業向け特例メリット制の活用により、長期的には保険料負担の軽減につながる
- メリット制は、事業場ごとの労働災害発生状況に応じて、災害の少ない事業場は割引、多い事業場は割増とし、基本的には±40%(一部例外では±35%または±30%)の範囲で労災保険料が変動する制度
- 割引・割増の判定は「メリット収支率」により、一定水準(おおむね75%以下で割引、85%以上で割増、その間は変動なし)で行われる
- 継続事業、一括有期事業、単独有期事業で適用要件が異なるため、自社の事業形態ごとに要件を確認することが重要
