第2章 フィードバックの重要性と効果

人事評価制度の真価は、「評価結果をどう伝え、どう活かすか」にかかっています。つまり、評価そのものではなく、その“後のフィードバック”が職員の成長や職場の活性化に直結するのです。

●フィードバックは“育成の第一歩”
フィードバックとは、評価結果を一方的に伝えることではありません。
評価の背景や根拠、そして今後の期待について「対話」することで、職員が自らの現状を理解し、次の目標に向かう手がかりを得る行為です。

たとえば、ある職員が「利用者対応が丁寧」と評価されたとします。
そのとき、
「この半年間、○○さんの笑顔が増えましたよね」
「利用者の○○さんが、あなたがいると安心するって話していました」など、
具体的なエピソードを添えて伝えると、本人は自分の価値を実感できます。

そして、「もっとこうした関わりを増やしていこう」と前向きな意欲につながるのです。

●職員のエンゲージメントを高める
フィードバックは、職員のエンゲージメント(仕事や組織への愛着・熱意)を高めるための有効な手段です。
とくに福祉・介護業界では、日々の業務が“感情労働”であり、努力が見えにくいという課題があります。

「ちゃんと見てもらえている」と実感できることは、職員にとって非常に大きな励みです。
逆に、どれだけ頑張っても何も言われなければ、「自分の仕事は誰にも伝わっていない」と感じ、やがて無力感や離職意欲に結びつきます。

小規模な事業所では、フィードバックの有無が職員の心理にダイレクトに影響します。
管理職や上司がこまめに声をかけ、感謝や期待を言葉にすることで、「この職場で働き続けたい」と思える環境が育まれます。

●離職防止につながる心理的安全性
近年、多くの福祉施設で課題となっているのが「人材の定着」です。
給与や労働時間の改善に取り組んでも、思うように定着率が上がらない。

そんなときこそ、注目すべきは「心理的安全性」です。
「心理的安全性」とは、組織行動学者でハーバード大学のビジネススクールで教鞭を執るエイミー・C・エドモンドソン氏が提唱したもの。
エドモンドソン氏は1999年発表の論文「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」にて、次のように心理的安全性に言及しています。

Team psychological safety is defined as a shared belief that the team is safe for interpersonal risk taking.
(心理的安全性とは、対人関係でのリスクのある言動に対して、安全であるという気持ちがチーム内で共有されている状態と定義される)

フィードバックのある職場では、
「間違っても受け止めてもらえる」
「困った時に相談できる」雰囲気が生まれます。
これが心理的安全性であり、ストレスを軽減し、離職を防ぐ効果があることが分かっています。

また、フィードバックを通じて管理職・上司と職員の信頼関係が築かれれば、「ここで働く意味」が明確になります。
自分の役割が理解でき、職場に必要とされている実感があれば、職員は多少の困難があっても粘り強く取り組もうとします。

●フィードバックは「習慣化」がカギ
フィードバックの効果を最大限に活かすには、1回きりのイベントにせず、「定期的かつ日常的な習慣」として組み込むことが重要です。

たとえば、
・月1回15分程度のミニ面談
・朝礼後の一言フィードバック
・週報や日報へのコメント
といった形で、自然に「見ている」「伝える」機会を作ることで、職場に“認め合いの文化”が生まれます。

業種こそ違いますが、当事務所では、毎日日報を記入してもらい、それに対して代表者である所長がスタッフ一人ひとりにコメントを返信しています。
また、毎月1回30分の面談を行い、スタッフの考えや希望を吸収する時間を設けています。

加えて、年2回の正式な評価面談では、より丁寧に話を聞き、過去半年の振り返りと今後の目標設定につなげると効果的です。
このように「小さなフィードバック」と「大きなフィードバック」の両輪で運用することが、職員の成長と定着に大きな違いをもたらします。