第1章 なぜ「最初の採用」は特別なのか?

あなたがこのコラムを目にしたのは、きっと「そろそろ人を雇うべきかもしれない」と感じているからではないでしょうか。

これまで一人で頑張ってきたあなたが、「人を雇う」という選択肢を考え始めた。
それは、事業が成長してきた証でもあり、経営者としての新しいステージに立ったということでもあります。

でも同時に、こんな不安もあるのではないでしょうか。

「本当に雇って大丈夫だろうか?」

「失敗したらどうしよう…」

「そもそも、何から始めればいいのか分からない」

大丈夫です。そう感じるのは、あなただけではありません。
むしろ、その不安こそが「ちゃんと考えようとしている証拠」です。

この章では、なぜ「最初の採用」が特別なのか、そしてなぜ多くの人がそこでつまずいてしまうのかを、一緒に見ていきましょう。

●なぜ今、人を雇おうと思ったのか

「人を雇おう」と思うきっかけは、人それぞれです。

  • 仕事が増えて、ひとりでは回らなくなってきた
  • 売上が伸びてきて、次のステージに進みたい
  • 新しい事業に挑戦したいけど、手が足りない
  • 体力的に限界を感じている

どれも立派な理由です。
私の場合、前述したとおり、業務量の増加がきっかけです。

「人を雇う」とき、なぜ雇おうと思ったのか、その理由を大切にしておくことが大事です。

あとで詳しく説明しますが、なんとなくで「人を雇う」と失敗する可能性が高くなります。
「人を雇う」というのは、単なる人手の補充ではなく、経営の転換点ということを忘れないようにしましょう。

これまで全部自分でやっていた仕事の一部を、誰かに任せる。
あなた自身が事業の強みである部分に集中するため、仕事の一部を担ってもらうと考えるとよいでしょう。

そして、最初に雇う一人は、職場の文化や空気をつくる存在になります。
その人の働き方や価値観が、これからの組織の“モデル”になるかもしれません。

だからこそ、「誰でもいい」ではなく、「この人と一緒にやっていきたい」と思える人を選ぶことが大切です。

●よくある“最初の採用”の失敗例

最初の採用でつまずく人は、少なくありません。
私が業務のなかで実際に遭遇した、よくある失敗例をいくつかご紹介します。

①知人の紹介者を雇ったら、思ったように働いてくれなかった

知人の紹介者を、業界経験者でもあったため、即戦力を期待し雇ったが思ったように動いてくれない。
その人に対する期待度が大きかった分、入社当初からあれもこれも要求してしまい悪いところばかりに目が行ってしまい、その人の良さを見いだせなかった。

②契約書を交わさず、口約束でスタートしたためトラブルになった

給与や所定労働時間等の大事な労働条件を曖昧にしたたまま、口約束で勤務を開始した。
その後、働きぶりが思ったほどでないため、給与を下げたらトラブルになった。
(このケースはトラブルを自ら誘発したように思います)

③多忙で教える時間がなく、口調がきつくなり、辞められた

多忙であるため雇ったのに、新人に教えるという業務が加わりさらに多忙に。
自然と口調がきつくなっていき、雇われた人が萎縮し始め、最終的に辞められた。

どれも「あるある」な話です。
でも、これらの失敗の多くは、事前に知っていれば防げるものばかりです。

なぜ、最初の採用で失敗してしまうのでしょうか?
その多くは、「思い込み」によるものです。

たとえば…

  • 「人を雇えば楽になる」→ 実際は、教える時間が必要です
  • 「いい人が来ない」→ 求人の出し方や伝え方に問題があるかもしれません
  • 「人件費が不安」→ でも、“時間を買う”という考え方もあります
  • 「自分にマネジメントなんて無理」→ 最初は“教える”より“任せる”ことから始めてもよい

こうした思い込みが、採用のブレーキになってしまうのです。

●一人目がうまくいくと、すべてが変わる

逆に言えば、「最初の一人」がうまくいくと、事業もあなた自身も大きく変わります。

私も「最初の一人」を雇うとき勇気がいりました。

ですが、社会保険労務士という職務上、雇用している事業主に対しアドバイスをするのに、その社会保険労務士自身が雇用者であるのとそうでないのと、どちらのアドバイスに説得力があるでしょうか。

ある先輩社労士も、その先輩社労士から「社労士として職員を雇用することでステージがあがる」と言われていました。
「人を雇う」ことで、責任感や仕事に対する誇りが芽生えるというメッセージだったのでしょう。

私自身、「人を雇う」ことで、自分に足りないものに気づき(むしろそればかりだったと思います笑)、さらに成長させてもらうきっかけになったと思ってます。

  • 「人に任せる」ことで、あなたの時間と視野が広がる
  • 採用の成功体験が、次の採用への自信になる
  • 「この人がいてくれてよかった」と思える経験が、経営の原動力になる

そして何より、「組織の文化」は最初の一人から始まります。
その人と一緒に、会社の“はじまりの物語”をつくっていくのです。

不安があるのは当たり前です。

「人を雇うのが怖い」

「失敗したらどうしよう」

「自分にできるのか分からない」

そう思うのは、自然なことです。
むしろ、何の不安もなく人を雇う方が危ういかもしれません。

大切なのは、不安をなくすことではなく、「備える」こと。
このコラムでは、採用の準備から、雇った後の育て方まで、ひとつずつ一緒に考えていきます。

まずはこの章を読んだあなたが、「なんとなく雇う」のではなく、「ちゃんと考えて雇う」ための第一歩を踏み出せたなら、それだけで大きな前進です。

さあ、次の章では、実際に人を雇う前に考えておくべきことを整理していきましょう。
あなたの「最初の一人」が、最高の仲間になるように。