第5章 評価を「育成」につなげる目標設定とフォローアップ
評価制度が本当の意味で職員の力になるためには、「評価して終わり」では不十分です。
評価のあとに“次の行動”がなければ、職員は「頑張ったね」と言われても、「で、これから自分はどうすればいいの?」という気持ちを抱いてしまいます。
福祉・介護の現場では、一人ひとりの経験や得意分野が違います。
それぞれに合った形で「どう成長していくか」を一緒に描くことこそが、評価制度を育成に活かす本質的なポイントです。
特に小規模な事業所では、職員の成長がそのまま現場の力になり、利用者の安心にもつながります。
だからこそ、評価後には必ず「目標を立て、それを支援していく」というプロセスを組み込むことが大切です。
この章では、そんな“未来につながる評価制度”を実現するためのステップを、3つの観点から詳しく解説していきます。
●評価を“未来志向”に変える ― なぜ目標設定が大切か?
評価というと、つい「過去の仕事ぶりを振り返るもの」というイメージが強くなりがちです。
しかし、評価制度を育成支援として活かすには、結果だけでなく「これからどう成長していくか」を重視することが大切です。
たとえば、介護スタッフのAさんが「利用者対応に優れている」と評価された場合、「素晴らしかったね、お疲れさま」で終わってしまうと、それは“過去”の評価でしかありません。
でも、「このスキルをもっと広げて、他のスタッフに共有していけたらどう?」
という一言があれば、それはAさんにとって“次のステップ”となり、明確な目標になります。
目標は、「あなたの今の強みを、どう育てていくか」を一緒に考えるプロセスです。
職員自身が「次に向かうべき道筋」を持てるようにすることで、日々の仕事が“成長のための機会”として意識されるようになります。
●SMARTの原則でつくる“伝わる”目標
目標を形だけ作っても、抽象的すぎると職員にとっては「何をすればいいのか分からない」となってしまいます。
そこで活用したいのが、「SMART」の原則です。
S(Specific/具体的):「もっと頑張ろう」ではなく「週1回、職員同士の勉強会を行う」など具体的に
M(Measurable/測定可能):進捗や達成度が分かる内容になっているか
A(Achievable/達成可能):現実的に実行可能な範囲か
R(Relevant/関連性がある):その人の業務や役割に合っているか
T(Time-bound/期限がある):「3か月以内」「次回面談までに」など明確な期間設定
例として、「新人のOJT担当として、3か月間で週1回の振り返りミーティングを実施する」という目標は、SMARTすべてに当てはまります。
さらに、目標を一緒に作るプロセスが、職員との信頼関係にもつながります。
●目標は“立てて終わり”ではない ― 継続的なフォローアップの仕組み
目標を設定した後、大切なのは「それをどう支援するか」です。
せっかく良い目標を立てても、その後放置されてしまえば意味がありません。
小さな事業所だからこそ、管理者が日々の中でこまめに声をかけることが、職員にとっては大きな後押しになります。
たとえば、「この前話してたOJT、うまくいった?」と聞くだけでも、「ちゃんと覚えてくれてる」と感じられ、やる気につながります。
進捗が難しそうなら、「少し手伝おうか?」という一言も大きな支援になります。
さらに、月1回のミニ面談や、業務日誌にコメントを残すなど、定期的にフィードバックの機会を設けることで、目標が“自分事”として定着していきます。
また、目標の達成度を評価するだけでなく、「なぜできたか」「何が難しかったか」を一緒に振り返ることで、職員は単なる“結果”ではなく“学び”を得ることができます。
こうした振り返りの積み重ねが、確実に現場の人材を育てていくのです。