はじめに/「採用はゴールではない」

これは、私が初めてスタッフを採用したときに痛感した言葉です。

当時、私は社会保険労務士として独立し、業務が少しずつ軌道に乗り始めた頃でした。
今まで妻がスタッフとして業務を補助してくれていましたが、その妻の妊娠・出産をきっかけに、スタッフを採用することになりました。

応募してきた方は、大きな事業所での給与計算の経験がある、いわば“即戦力”のように見える方でした。
ところが、実際に仕事を始めてみると、当事務所が扱う小規模事業所の給与計算とは勝手が違い、戸惑いが続きました。
結果的に、その方は早期に退職されてしまいました。

もちろん、退職されたその方に責任はありません。
「経験がある人を採ればうまくいくと思っていたのに…」
私には人材派遣会社時代に採用・面接・定着業務を行ってきた経験と自負がありましたので、上手くいくだろうと高をくくっていたのです。

私は、自分の採用のやり方を根本から見直すことにしました。
まず変えたのは、面接の時間と内容です。
それまで一般的な面接と同じように、1人あたり20〜30分程度で終えていたのですが、
それではお互いの理解が浅く、ミスマッチが起きやすいと感じたのです。

そこで、当事務所では1人あたり1時間〜1時間30分の面接時間を確保するようにしました。
しかも、こちらが一方的に質問するのではなく、業務の説明を丁寧に行い、応募者からの質問を受けるスタイルに変更しました。
「この仕事はどんな内容か」「どんなお客様がいるのか」「どんなスキルが求められるのか」
そういったことをしっかり伝えたうえで、応募者自身が納得して応募できるようにしたのです。

この面接スタイルは、私が以前勤めていた人材派遣会社での経験が大きく影響しています。
当時、私は年間300人以上の面接を担当していました。
その中で、「応募者が納得して働けるかどうか」が、定着や活躍に直結することを何度も目の当たりにしてきました。
だからこそ、社労士として独立した今も、“採用はお互いの理解と納得があってこそ”という考え方を大切にしています。

また、面接だけでなく、実際の業務を体験してもらう“実務試験”も導入しました。
当事務所の仕事の進め方や雰囲気を知ってもらい、こちらもその方の適性を見極める。
その結果、次に採用したスタッフは、すぐに業務に馴染み、長く事務所の中心メンバーとして活躍してくれました。

この経験を通じて私は、「採用は感覚ではなく、設計が必要だ」と強く感じました。
そして、同じように悩む小さな会社の経営者の力になりたいと考えるようになったのです。

本シリーズでは、私自身の失敗と試行錯誤、そしてこれまで支援してきた中小企業の事例をもとに、
「はじめての採用でも、失敗しないための考え方と実践方法」をお伝えしていきます。

人を雇うのは、たしかに勇気がいります。
でも、正しいステップを踏めば、あなたの会社にぴったりの人材と出会うことは、決して夢ではありません。

このコラムが、あなたの最初の一歩を後押しできることを願っています。