第1章:採用は“戦略”で決まる
――「戦わずして、出会う」ための考え方
●「採用は戦略です」
私は、採用の相談を受けるとき、必ずこの言葉をお伝えしています。
戦略とは、「戦いを略す」と書きます。
つまり、いかに他社と競合せずに、求める人材と出会うか。
「自社」×「他社」×「求める人材(求職者)」の3つの中心点で考えること。
これが、採用成功のカギなのです。
多くの中小企業が、「人が来ない」「応募がない」と悩んでいます。
でも、よくよく話を聞いてみると、出している求人票は、他社とほとんど同じような内容。
「やる気のある方」「真面目な方」「お客様のために仕事ができる方」――
これでは、求職者の目に留まることはありません。
なぜなら、他社と同じ土俵で戦っているからです。
しかも、知名度や給与条件で勝てない中小企業が、大手企業と同じ土俵で戦っても、勝ち目は薄いのです。
では、どうすればいいのか?
答えは、「戦わないこと」です。
つまり、他社と競合しない“独自の基準”を設けること。
たとえば――
- 年齢不問にする(定年制の廃止)
- 未経験者に限定する
- 高齢者歓迎にする
- 子育て中の主婦(夫)を対象にする
- 地域限定、短時間勤務OKなど柔軟な働き方を提示する
あくまで一例ですが、こうした基準を設けることで、他社とバッティングしない“自分たちだけの土俵”をつくることができます。
●採用は「マーケティング」と同じ
採用活動は、マーケティングと非常によく似ています。
商品が「自社の仕事」、顧客が「求職者」だと考えてみてください。
マーケティングでは、まず「誰に売るか(ターゲット)」を決めます。
採用も同じです。
「誰に来てほしいか」を明確にすることで、どんな言葉で、どんな媒体で、どんなタイミングで伝えるかが見えてきます。
この「誰に来てほしいか」を明確にする作業を、マーケティングでは「ペルソナ設定」と呼びます。
たとえば――
- 30代の子育て中の女性で、扶養内で働きたい人
- 60代で、まだまだ元気に働きたい人
- 地元で安定して働きたい20代の若者
こうしたペルソナを設定することで、「その人に刺さる言葉」「その人が見ている媒体」「その人が気にする条件」が明確になります。
●AISASで考える採用活動
さらに、採用活動を設計するうえで参考になるのが、マーケティングのフレームワーク「AISAS(アイサス)」です。
フェーズ | 採用における意味 |
---|---|
Attention(注目・認知) | 求職者があなたの会社の存在を知る |
Interest(興味・関心) | 「ちょっと気になる」と思ってもらう |
Search(検索) | 会社名や求人内容をネットで調べる |
Action(行動) | 応募・問い合わせ・説明会参加など |
Share(共有) | SNSや口コミで他の人に伝える |
この中で、最も重要なのが最初の「Attention(注目・認知)」です。
なぜなら、そもそも「知られていない会社」には、興味も持たれず、検索もされず、応募も来ないからです。
「注目・認知」を得るために、媒体は“複数”使う
中小企業の採用では、まず「知ってもらう」ことが最大のハードルです。
そのためには、可能な限り多くの媒体を使って、接点を増やすことが大切です。
たとえば――
- ハローワーク
- 地元の求人誌やフリーペーパー
- 自社ホームページの採用ページ
- SNS(Instagram、X、Facebookなど)
- 地元の高校・専門学校への求人票
- 地域の掲示板やスーパーのチラシコーナー
- 求人検索サイト(Indeed、求人ボックスなど)
媒体を増やすことで、求職者の目に触れる機会が増え、「あ、この会社、見たことあるな」と思ってもらえるようになります。
これが、注目・認知の第一歩です。
《まとめ》
採用は「戦略」で決まる
- 採用は「戦いを略す」こと。他社と競合しない基準を設けよう
- 採用はマーケティングと同じ。ペルソナを設定し、言葉と媒体を選ぼう
- AISASの「注目・認知」が最重要。まずは知ってもらうことから
- 媒体は1つに絞らず、複数使って接点を増やそう
採用は、感覚や勢いで行うものではありません。
「誰に、何を、どう伝えるか」を設計することで、他社と競合せず、あなたの会社に合った人材と出会うことができます。
次章では、実際に「応募が来る求人票の書き方」について、具体的な事例とともに解説していきます。
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