Q.社員からの強い要望で、来月から通勤手当を支給することにしました。そこで通勤手当の決め方について教えてください
A.通勤手当は、労働基準法上の支給義務はありませんので、支給の有無や金額、算定方法は会社が就業規則・賃金規程で設計できます。ただし、設計の仕方によっては残業代(割増賃金)の計算方法や課税関係に影響し、思わぬリスクが生じることがありますので、以下のポイントを押さえておくことが重要です。
■ まず支給するかどうか、どう算定するかは自由
通勤費は民法上、本来は労働者自身が負担すべき費用と考えられており、労働基準法にも通勤手当の支給義務は規定されていません。したがって、通勤手当を支給するかどうか、また支給する場合の支給範囲や金額の算定方法は、会社が自由に定めることができます。
公共交通機関を利用する社員には、「最も経済的かつ合理的な経路および方法による通勤定期代相当額」など、実際にかかる運賃を基準として支給するのが一般的です。
一方、マイカー通勤が多い地方の事業所では、例えば次のような方式がよく用いられます。
- 片道距離に応じた「距離区分による定額支給」※各事業所で独自に表を作成する
- 国税庁「非課税限度額」表により非課税限度額を基準に支給
- 「通勤距離×燃費×ガソリン単価」など、合理的な計算式による実費相当額の支給
いずれの方式であっても、「合理的な距離・経路」「単価の設定方法」などの算定基準を就業規則・賃金規程に明文化し、従業員に周知しておくことが大切です。
■ 月額支給か日額支給か
支給単位は、月額・日額いずれとすることも可能です。
1.月額支給(定期代相当額を支給する場合)
公共交通機関利用者について、1か月(または3か月・6か月など)の通勤定期券相当額を月額で支給する方法が主流です。
この場合、通常は有給休暇取得日や短期の欠勤があっても、通勤手当を日割控除しない運用とすることが多く、このような定めは法令上も差し支えありません。
もっとも、長期欠勤や休職、住所変更等により実際の通勤費と大きな乖離が生じる場合の取扱いについては、別途就業規則・賃金規程であらかじめ定めておくことが望まれます。
2.日額支給(出勤日数に応じて支給する場合)
「出勤した日だけ実費相当額を補填したい」という場合には、日額支給とすることも可能です。
この場合は、例えば次のような規定を就業規則に明記しておくことが必要です。
- 「通勤手当は出勤日に応じて支給する。」
- 「年次有給休暇取得日、欠勤日等については通勤手当を支給しない。」
このような定めがないにもかかわらず、有給休暇取得日分のみ通勤手当を控除すると、賃金の不利益控除として問題となるおそれがありますので注意が必要です。
なお、通勤手当を基本給等に含めて一体で定額支給している場合は、その一部を「通勤手当相当分」として日割りで控除することは原則できません。この場合は通勤費部分も「賃金」として扱われるため、控除を行うと違法な賃金控除と評価される可能性があります。
■ 割増賃金(残業代)の計算への影響
通勤手当の設計で見落とされがちなのが、残業代(割増賃金)の計算への影響です。
労働基準法上、残業代の算定基礎から除外できる手当は限定列挙されており、その一つが通勤手当です。
ただし、算定基礎から除外できるのは「通勤距離または通勤に要する実際の費用に応じて算定される通勤手当」に限られます。
そのため、次のような点に注意が必要です。
- 公共交通機関利用者に対し、「最も経済的かつ合理的な経路」の運賃・定期代相当額を支給している場合
→ 実費相当であり、残業代の算定基礎から除外することができます。 - マイカー通勤者に対し、通勤距離に応じた一定の支給額や、「通勤距離×ガソリン単価等」の合理的な算式で算定している場合
→ 距離・費用に応じた手当として、原則、算定基礎から除外することができます。
一方で、
- 「全員一律○円」など、通勤距離や実費とは無関係に一律で支給している場合
- 実費とはかけ離れた高額の「通勤手当」の名目で、実質的に給与を上乗せする趣旨で支給している場合
といったケースでは、名称が「通勤手当」であっても、「通勤距離または実際費用に応じて算定されたもの」とは認められず、残業代の算定基礎に含める必要があります。含めずに残業代を計算していると、未払い残業代が生じるリスクがあります。
■ まとめ
- 通勤手当には法定の支給義務はなく、支給の有無・対象範囲・算定方法・支給単位は会社が設計できますが、その内容は就業規則・賃金規程に明確に定め、従業員に周知しておくこと
- 日額支給で「出勤日分のみ支給」とする場合は、「通勤手当は出勤日に応じて支給する」「年次有給休暇取得日は支給しない」等のルールを就業規則に明記しておく必要があります。定期代方式などで一括支給している場合の欠勤・有休時の取扱いも、あらかじめ決めておくとトラブル防止になる
- 残業代の算定基礎から除外できる通勤手当は、「通勤距離」または「実際に要する費用」に応じて算定されたものに限られます。全員一律の通勤手当や、実費と無関係な支給は算定基礎から除外できないため、設計時には必ず残業代計算への影響を確認すること
