【ご質問】
「従業員から制服を返却しない場合の預り金として、5,000円を事前に徴収することはできますか?」という質問をいただきました。

【回 答】
結論として、制服の実費相当額を上限とする預り金を事前に徴収すること自体は、労働基準法第16条に直ちに抵触するものではなく、一定の条件のもとで運用は可能と考えられます。
もっとも、賃金からの控除方法や金額設定を誤ると同条違反や賃金全額払いの原則(同法第24条)違反と評価されるおそれがあるため、制度設計には注意が必要です。

■ 労働基準法第16条との関係

労基法第16条は、「労働契約の不履行について、違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。
一見、制服返却に関する預り金もこれに該当するように思えます。

しかし、制服を返却しないという行為は、労働契約の中核である「労務の提供」に関する債務不履行ではなく、会社から貸与された物品を返却しないという「使用貸借契約」上の債務不履行にあたります。
そのため、労基法第16条が規制する「労働契約の不履行」には形式的には含まれないと解釈する余地があります。

もっとも、預り金の額が制服の実費を超えて高額であったり、退職・自己都合離職等の特定の事由に連動させて没収するような設計を行うと、「退職等に対する制裁としての違約金・損害賠償予定」と評価され、労基法第16条違反と判断されるおそれがあります。

また、同条は違約金等によって労働者の退職の自由を制約することを防ぐ趣旨ですが、制服をきちんと返却すれば預り金は返金される制度であれば、通常は退職の自由を直接制約するものではないと考えられます。

■ 給与からの控除方法について

預り金を賃金から控除する形で徴収する場合には、労基法第24条に基づく「賃金全額払いの原則」との関係に留意が必要です。
会社が法定控除(所得税、社会保険料等)以外の項目を賃金から控除するには、原則として以下のいずれも満たすことが望ましいと考えられます。

  1. 賃金控除に関する労使協定の締結
    ・控除の対象項目(制服の預り金等)、金額または算定方法、控除の時期などを協定書に明記する。
    ・控除の対象は、「労働者本人が本来負担すべき金銭」であり、かつ「事理明白なもの」に限られると解されています。
  2. 従業員との個別合意の取得
    ・預り金制度の内容(趣旨、金額、返還条件等)を十分に説明したうえで、各従業員から書面等による同意を得る。
    ・貸付金返済の天引きと同様、従業員の「自由な意思」に基づく同意であることが重要です。
  3. 就業規則・労働条件通知書等での明示
    ・就業規則に「制服の貸与・返却」「預り金の徴収・返還方法」「賃金からの控除の根拠」等を規定し、周知しておく。
    ・新規採用時には、労働条件通知書または雇用契約書で預り金制度の有無と概要を明示しておくことが望ましい。

■ 実務上の留意点

  1. 預り金の金額設定

預り金の金額は、必ず制服の実費相当額(会社が負担した購入額等)を上限として設定してください。
実費を超える金額を設定すると、違約金的な性質を帯びることとなり、労基法第16条違反となるおそれがあります。

ご相談のあった「キリのよい5,000円」といった設定ではなく、実際の購入額に基づく金額設定が望ましいと言えます。
なお、制服一式が数種類ある場合には、その種類ごとに実費額を整理しておくと、後日の説明がしやすくなります。

  1. 返還条件・返還時期の明確化

・「どのような状態で返却すれば預り金を全額返還するのか(通常の使用による損耗は許容するのか等)」
・「返却が一部のみの場合の取扱い」
・「退職時に返却が遅れた場合の対応」

など、返還条件・返還時期を社内ルールとして明確化し、就業規則・内規・説明資料等に記載しておくことが望まれます。

  1. クリーニング費用負担の取扱い

退職時に制服をクリーニングしたうえで返却させ、その費用を従業員負担とする場合も同様です。

・クリーニング費用を都度実費で従業員に負担させる場合は、労働条件通知書での明示および就業規則への記載が必要となります。
・クリーニング費用相当分をあらかじめ一定額として預り金に含めるような設計を行うと、その部分が実費を超える違約金的性質と評価される可能性があるため、慎重な設計が必要です。

これらを怠ると、後日のトラブルの原因となりますのでご注意ください。

■ まとめ

・制服の預り金は、貸与物(制服)の返却義務に関連するものであり、形式的には労働契約の不履行に対する違約金・損害賠償予定には直ちに該当しないと解される。ただし、実費を超える設定や退職等に連動した没収は16条違反と評価されるおそれがある。

・制服の預り金を賃金から控除するには、賃金控除に関する労使協定の締結、従業員本人の個別同意、就業規則・労働条件通知書での明示が重要。制服未返却による損害金そのものを一方的に賃金から控除することは原則不可。

・預り金の額は制服の実費相当額を上限とし、クリーニング費用負担を含め、返還条件・返還時期を就業規則・労働条件通知書等で明示しておくことが重要。