Q.育児休業から復帰した従業員から「育休中の保険料免除のように、標準報酬月額を高いまま据え置いて保険料だけを下げてもらえないか」と相談を受けました。どのように説明すればよいでしょうか?
A.育児休業中の社会保険料の免除は、「一定期間、本人負担・会社負担の保険料を徴収しない」という取扱いであって、標準報酬月額そのものを高く維持する制度ではありません。免除されるのはあくまで保険料であり、標準報酬月額の等級自体は、育児休業の有無にかかわらず、資格取得時決定・随時改定・定時決定など通常のルールに基づいて見直されています。【※修正】
■現在の標準報酬月額は定時決定等で既に見直されている
標準報酬月額は、原則として毎年4~6月の給与をもとに算定基礎届を提出し、9月から新しい等級が適用されます(定時決定)。
育児休業前にすでにこの手続きが行われている場合には、現在の標準報酬月額は、直近の定時決定や随時改定等により見直されている可能性が高い状態です。
そのため、「育休前の高い等級が維持されたまま、保険料だけが安くなっている」
というわけではなく、標準報酬月額の等級自体は、通常のルールに従って改定されており、その等級に応じた保険料が計算されています。
■「育休中の保険料免除」と「育休終了時の月額変更」は別制度
- 育児休業中の保険料免除について
育児休業期間中は、要件を満たす場合、会社負担・本人負担ともに健康保険・厚生年金保険料が免除されますが、この免除は「標準報酬月額を高く固定しておく制度」ではありません。標準報酬月額の決定・改定自体は、他の被保険者と同様に、資格取得時決定、定時決定、随時改定等のルールに基づいて行われます。
- 育児休業等終了時の報酬月額変更について
一方、復職後に短時間勤務の利用や残業時間の大幅な減少などにより給与が下がった場合に活用できるのが、「育児休業等終了時報酬月額変更」です。
この制度では、次の要件をすべて満たすときに、従業員ご本人の申出に基づいて標準報酬月額を改定します。
- 育児休業等の終了日において、当該育児休業等に係る子が3歳未満であること
- 「これまでの標準報酬月額」と「育児休業終了日の翌日が属する月以後3か月分の報酬の平均額に基づき算出した標準報酬月額」とのあいだに、1等級以上の差が生じていること
- 育児休業終了日の翌日が属する月以後3か月のうち、少なくとも1か月における支払基礎日数が17日以上あること(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)
- 従業員本人からの申出があること(事業主が一方的に届出することはできません)
この手続きで決定される「改定後の標準報酬月額」は、育児休業終了日の翌日が属する月以後に支払われた3か月分の報酬の平均額をもとに算定します(支払基礎日数が17日未満の月は原則除外)。
また、改定された標準報酬月額は、育児休業終了日の翌日が属する月の4か月目から適用されます。
■標準報酬月額を下げる際の留意点
- 保険料負担への影響
標準報酬月額が下がると、健康保険料・厚生年金保険料ともに毎月の保険料負担は軽くなります。実際の給与水準に見合った保険料額になる、という点がメリットです。
- 各種給付への影響
一方で、標準報酬月額の等級が下がると、以下のような給付の支給額の算定にも影響します。
- 傷病手当金
- 出産手当金 など
これらの給付は、支給開始前のある一定期間の標準報酬月額をもとに計算されるため、育児休業終了時の月額変更で等級を下げた直後に私傷病休業や次の出産に伴う休業が発生した場合、給付額が下がる可能性があります。
- 将来の年金額への配慮(養育期間標準報酬月額特例)
将来の老齢厚生年金の額については、「養育期間標準報酬月額特例」の申出を行うことで調整が可能です。
この特例を申出ると、
- 3歳未満の子を養育している期間について、
- 実際には標準報酬月額が下がっていても、
「養育開始月の前月の標準報酬月額」を用いて将来の年金額を計算してもらうことができます。
なお、この特例は
- 育児休業等終了時の月額変更を行った場合だけでなく、定時決定等で標準報酬月額が下がった場合でも利用できます。
- 本人からの申出がなければ適用されない制度であり、会社側に一方的な手続義務があるわけではありません。
【まとめ】
- 育児休業中の保険料免除は「保険料を徴収しない取扱い」であり、標準報酬月額そのものを高く維持する制度ではない。標準報酬月額は、育休の有無にかかわらず、資格取得時決定・随時改定・定時決定等の通常ルールで見直されている。
- 育児休業等終了時の月額変更は、「これまでの標準報酬月額」と「育児休業終了日の翌日が属する月以後3か月の平均報酬から算出した標準報酬月額」を比較し、子が3歳未満であること、支払基礎日数要件、1等級以上の差、本人申出といった要件を満たす場合に、ご本人の申出により行う。改定後の標準報酬月額は、復職した月(育児休業終了日の翌日が属する月)の4か月目から適用される。
- 標準報酬月額を下げると毎月の保険料は軽くなるが、傷病手当金や出産手当金などの給付額に影響する可能性がある。一方、将来の年金額については、「養育期間標準報酬月額特例」の申出により、養育開始月の前月の標準報酬月額を用いて計算してもらうことができ、標準報酬月額の引下げが将来の年金額に直結しないようにすることが可能。
