第4章 面接と選考の進め方
「求人を出したら、応募が来た!」
…うれしい瞬間ですよね。
でも、ここからが本番です。
せっかく応募してくれた人と、どう向き合うか。
そして、「この人と一緒に働きたい」と思える人を、どう見極めるか。
この章では、面接の準備から進め方、判断のポイントまで、初めての採用でも迷わず進められるよう、実践的にお伝えしていきます。
私はかつて前職で年間300人以上の面接を行っていました。
また、地元労働局主催の就職支援セミナーの講師としても数年間、勤めていました。
面接はする方(面接者)も、される方(応募者)もお互い緊張するものです。
ですが日常の業務を行いながら面接をする事業主と、私が講師をしていた就職支援セミナーに参加し、面接に臨む準備を十分にしてきた応募者とでは、そもそも掛けている時間が違います。
事業主であるあなたも、あらかじめ準備をし面接に臨みましょう。
1 面接の準備と流れを押さえよう
面接は、応募者にとっても、あなたにとっても「お見合い」のようなもの。
お互いに「この人と合うかな?」を確かめる場です。
ですから面接は、あなたが一方的に「選ぶ」場ではありません。
応募者も見ています。
面接者の心構えとして、あなたたちも「見られている」ことを忘れないようにしてください。
「たち」と書いたのは、あなた以外に職場の雰囲気も見られているということです。
応募者は、事前に求人案内やホームページから感じ取った雰囲気と違和感がないかを確認しているのです。
「選ぶ」のではなく、「選ばれている」ことを忘れないようにしてください。
まずは、面接の基本的な流れを押さえておきましょう。
以下は、当事務所の面接の流れの例です。
面接の流れ(例)
① アンケート、適性検査
② 面接者の自己紹介
③ 仕事内容や会社の説明をする
④ 応募者の経歴や志望動機を聞く(履歴書の記載内容の確認)
⑤ 質疑応答(応募者からの質問に答える)
⑥ 今後の流れを伝えて終了
当事務所の場合、最初に面接前アンケートをとってから面接を始めます。
アンケートには応募者の就労条件、賃金等をあらかじめ記入してもらっています。
求人案内を見て応募してきているので納得済みと思われるかもしれませんが、賃金、勤務時間等は採用後の定着にかかわってくるため、必ず聴くようにしています。
また、あらかじめ履歴書と職務経歴書は、郵送してもらい、質問する内容を準備します。
そうすることで、面接の時間をより深いものに変えることができます。
面接は様々な方法が考えられますが、必ず面接スケジュールを作り、それに従ってすべての人に同じことを行ってください。
同じ面接を同じ時間ですることで、他の人と比較することができます。
2 面接で何を聞けばいい?
「何を聞けばいいのか分からない…」という声はよく聞きます。
最低限、次のことは確認しておきましょう。
- どんな仕事をしてきたか(経験・スキル)
- なぜこの仕事に応募したのか(動機)
- どんな働き方をしたいのか(希望条件)
- どんな人柄なのか(価値観・雰囲気)
- 前職を退職した理由(今後の定着に影響)
これらを知るために、例えば次のような定型の質問を用意しておくとスムーズです。
質問例:
- 「これまでの仕事で、自分の創意工夫でやり遂げたと思える仕事はなんですか?」
- 「うちの求人を見て、どんなところに惹かれましたか? 他に応募しているところがありますか?」
- 「どんな働き方を希望されていますか?」
- 「仕事で大切にしていることは何ですか?」
- 「なぜ前職を退職したのですか? もう少し詳しく教えてもらえますか?」
質問の内容に的確に回答できることがベストですが、これらの質問は応募者も質問を予測してきています。
そのため私は、回答の内容に「違和感がないか」を感じるとるようにしています。
とくに応募者の前職が、募集している仕事内容とまったく異なる場合、「経験・スキル」と「動機」を深掘りします。
中途採用で重要なことは「職務」を遂行する能力があるかです。
また、ある程度、この仕事はしてほしいと思い募集をしているはずですから、どのような人材を採用したいかを明確にし、その人材を測る“物差し”を準備しておくことです。
3 聞いてはいけない質問とは?
「面接で聞いてはいけないことがありますか?」という質問もよくいただきます。
たとえば、以下のような質問はNGです。
NG質問の例:
- 「お子さんはいますか? 将来の予定は?」
- 「宗教や信条について」
- 「家族の職業や収入について」
これらは、本人の能力や適性とは関係のない情報であり、差別につながる恐れがあります。
具体的には厚生労働省の「公正な採用選考をめざして」(ガイドライン)をご確認いただきたいと思います。
就職差別につながるおそれのある具体的事項として、本人に責任のない事項や、本来事由であるべき事項、身元調査・合理的必要性のない採用選考時の健康診断など14事項があげられています。
知らずに聞いてしまうと、昨今の時代、SNSにアップされることもありますので注意しましょう。
もし、どうしても確認をしておきたい場合は、「この質問は、仕事に関係がある事項か?」を基準に考えると安心です。
きちんと理由を説明し、なぜこの質問が必要なのかを相手に伝え、回答をしたくなければ回答しなくてよい自由もあることを添えて、質問をするとよいでしょう。
4 採用・不採用の判断と伝え方
面接が終わったら、いよいよ判断のときです。
でも、「いい人だったけど、決めきれない…」ということもあるかもしれません。
そんなときは、以下の3つの視点で考えてみましょう。
判断のポイント:
- スキル:任せたい仕事ができそうか?
- 相性:あなたや会社の雰囲気と合いそうか?
- 意欲:この仕事に前向きに取り組んでくれそうか?
すべてが完璧な人はいません。
でも、「この人と一緒にやっていけそう」と思えるかどうかが、いちばん大切です。
ここで注意しておきたいことは、面接の場で「即決」しないでください。
面接の場では、面接者も応募者も緊張感からいつもより少し気持ちが上振れしています。
応募者と話しが盛り上がったときこそ、要注意です。
採用を決定するまで、せめて一日は置いてください。
応募者もその場で即決されると当然嬉しい気持ちもありますが、この職場でよかったのかという不安も同時に沸き起こり、内定辞退につながりやすくなります。
応募者にも考える時間を持っていただき、お互いに冷静になる期間を設けましょう。
そして、採用・不採用の連絡は、あらかじめ応募者に伝えた期日を必ず守りましょう。
伝える手段も、あらかじめ面接時に伝えた方法で行いましょう。
「採用・不採用」にかかわらず、どちらの結果であっても、あなたも応募者も次に進まなければいけません。
採用選考の期日だけは厳守しましょう。
「断るときこそ、誠実に」。
それが会社の印象を左右します。
✅ この章のポイント
- 面接は「対話の場」として準備しよう
- 聞くべきことは「経験・動機・希望・人柄」
- 聞いてはいけない質問に注意しよう
- 判断は「スキル・相性・意欲」の3つで見る
- 採用・不採用の連絡は、早く・丁寧に
《まとめ》
面接は“対話”であり、“未来を描く場”です。
面接は、ただの選考ではありません。
あなたと応募者が、お互いの未来をすり合わせる大切な時間です。
大切なのは、面接者が「一方的に話す」のではなく、応募者の「言葉」を引き出すこと。
そのためには、面接をする場所や面接者自身の身だしなみ、話し方等の雰囲気や場作りも重要です。
次の章では、いよいよ「採用が決まった後にやるべきこと」について見ていきます。
契約書や社会保険の手続き、初日の準備など、実務的なポイントを一緒に確認していきましょう。