第5章:採用は“仕組み”で強くなる
――「やりっぱなし」から「振り返って改善する」へ

「採用って、やってみないと分からないですよね」

「うまくいったのか、いかなかったのか、正直よく分からない…」

これは、採用活動を終えたあとに多くの中小企業が感じる“モヤモヤ”です。
でも、実はこの「振り返り」こそが、次の採用を成功させる最大のカギなのです。

採用は、1回きりのイベントではありません。

会社が成長し続ける限り、採用は何度も繰り返される“経営活動”です。
だからこそ、毎回の採用を「やりっぱなし」にせず、仕組みとして改善していくことが大切です。

この章では、採用活動を「振り返り→改善」するための考え方と、実際の進め方をご紹介します。

●採用にも「PDCA」を回す

「PDCA」とは、Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(振り返り)→ Act(改善)のサイクルのこと。
製造業や営業活動ではよく使われる考え方ですが、実は採用活動にもピッタリ当てはまります。

たとえば――

  • Plan(計画):どんな人を、いつまでに、何人採用するか? どの媒体を使うか?
  • Do(実行):求人票を出し、面接を行い、採用する
  • Check(振り返り):面接での印象と入社後の実態は一致していたか?(自社にとって理想の人材であったか?)
  • Act(改善):次回に活かす箇所は? 求人票の表現? 面接の質問? 採用基準?

このように、採用活動を“仕組み”として捉えることで、毎回の精度が上がっていくのです。

多くの会社がいきなり「Do(実行)」から始めています。
そのため「採用活動」ではなく、行き当たりばったりの「採用行動」となっています。

採用行動から始めると、「どの求人媒体がよいか」に焦点が行きがちです。
求人媒体は手段であり、どの媒体がよいかを見極めることが目的(ゴール)ではありません。

採用行動から始めることは、夕食のご飯を何にするのかを決めずに、買い物に行くようなものです。

「いい食材だと思い購入したら、その食材は違うスーパーの方が鮮度がよかった」

いい食材を探すことが目的ではなく、夕食のご飯に沿った食材を探し、そのためにどこのスーパーが適当かを考え、行動すること。
行き当たりばったりの「採用行動」では、ムダが増えてしまいます。

採用の「目的(ゴール)」は何かをしっかり持っておくことは基本中の基本になります。
「手段」と「目的」が逆転してしまわないよう、採用活動(PDCA)は「Plan(計画)」から始めると、まず意識してください。

●採用活動の「記録」を残す

振り返りをするには、まず「記録」が必要です。
たとえば、以下のような情報を簡単にメモしておくだけでも、次回に大きく役立ちます。

  • 求人票の内容(どんな表現を使ったか)
  • 応募者数・面接者数・採用者数
  • 面接での印象と、入社後の実態
  • 採用にかかった費用と時間
  • 採用した人の定着状況・活躍度

これらを「採用活動記録シート」として残しておくと、次回の採用時に「前回はどうだったか?」をすぐに確認できます。

【実例】採用のPDCAを意識し採用力がアップした製造業A社

ある製造業のA社では、以前は「とりあえず求人を出して、来た人を面接して決める」という採用スタイルでした。
その結果、入社後すぐに辞めてしまう人が続出。

「うちは人が定着しない会社なんだ」と諦めかけていました。

しかし、採用活動を「仕組み」として見直すことに。

求人票の内容を求職者目線で書き直し、面接では質問集を使って評価を統一。
採用後は育成スケジュールを整え、1ヶ月・3ヶ月の定着面談も実施。

さらに、採用活動のたびに「何がうまくいったか/いかなかったか」を記録し、次回に活かすようにしました。

その結果――

応募数は以前よりも増え、定着率も改善していきつつあります。

●採用は「一発勝負」ではなく「積み重ね」

採用は、運やタイミングに左右される部分もあります。
でも、それだけに頼っていては、いつまでも「採れるときもあれば、採れないときもある」という不安定な状態が続いてしまいます。

だからこそ、採用を“仕組み”として積み重ねていくことが大切なのです。

  • 求人票の書き方を改善する
  • 面接の質問をブラッシュアップする
  • 採用基準を見直す
  • 育成の仕組みを整える
  • 振り返りを記録し、次回に活かす

繰り返しになりますが、「第1章 採用は“戦略”で決まる」でお伝えしたとおり、採用においてはまず、自社独自の基準やペルソナを設定し、理想の人材をどのように採用するか、これがすべてです。

そのために、今回、ご紹介した採用のPDCAを回すようにしてください。
このような小さな改善の積み重ねが、やがて「採用力のある会社」へとつながっていくはずです。

《まとめ》

  • 採用活動にも「PDCA(計画・実行・振り返り・改善)」を回す
  • 振り返るべき5つの視点(応募数/面接通過率/定着率/コスト/活躍度)をチェック
  • 採用活動の記録を残し、次回に活かす
  • 採用は「一発勝負」ではなく「積み重ね」で強くなる
  • 小さな改善の繰り返しが、採用力のある会社をつくる

次章では、採用活動を「会社の魅力づくり」として捉える視点をご紹介します。

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